飛騨のブドウ栽培に関する考察②-2021 - 木戸脇果樹園

飛騨のブドウ栽培に関する考察②-2021

 前述の内容から、仕立てによる味の違いがほぼないと仮定した場合、最適なキャノピーマネジメントを行うための仕立ては何かを考察してみます。

-飛騨のぶどう栽培(垣根栽培)-

 ぶどうの品質といっても、果実の凝縮感・健全性・糖度など、いろんな指標がありますが、少なくとも果実の健全性(病気の少なさ)については、飛騨を含めた雨の多い地域で、垣根栽培はあまり適当ではないと思っています。(産地は、環境がいいので別。ヨーロッパの仕立てが、そのまま成り立っている。)まず、垣根では新梢同志の重なりが生じ、湿度が高くなりやすいため、病気が発生しやすいことが挙げられます。これを克服するには、新梢密度を下げて、密を防ぐことが重要です。

『2つの方法』
1. 新梢数の制限・・・垣根栽培における芽掻き等を徹底し、新梢同士が密になるのを防ぐ。単位長さあたりの収穫量が落ちる。株間が狭い場合、 樹勢のコントロールが難しくなる恐れがある。
2. リラ仕立ての採用・・・1本の木から間隔の狭い2列の垣根仕立てを作る仕立て。垣根に比べ、新梢密度を下げても、単位長さ当たりの新梢数を稼げるため、樹勢のコントロールがしやすく、収穫量も確保しやすい。ただし、施工コスト・作業コストともに垣根栽培より必要となる。

雨の多い地域における難しさの要因は、樹勢が強くなることです。垣根栽培を成功させるには、産地よりも新梢密度を下げる必要がありますが、これはそのまま、収穫量の減少・樹勢の強化を意味します。果実の大きさは、樹勢によって大きく左右されるため、小さい実を作るために、垣根栽培を採用したにも関わらず、樹勢が強くなっては元も子もありません。ワイン用ブドウは、基本的に病気に弱い品種がほとんどです。農薬散布を徹底すれば、新梢密度が高くても、ある程度抑えることはできますが、農薬の使用を抑えるという観点に立てば、果実周辺に密を作り出すことは疑問です。ビニールで雨除けすればいいじゃないかという声も聞こえてきそうですが、それは同時に、果実周辺を温めることにもつながります。(袋をかけて見かけをよくした、りんごの味がボケるのと同じことが起きかねません。あくまでワイン用ぶどうは、加工用ぶどう。露地栽培に味は敵いません。)通気性の良い傘はかけても良いですが、ビニールまでかけるくらいなら、仕立て方や品種を変えるべきかもしれません。また、栽培管理も低姿勢での作業が要求されるため、負担の大きい栽培方法と言えます。それでも、メリットはあります。本当に高品質なぶどうを求めた場合に、密植にして樹勢を抑え、新梢を立てることで、果実の肥大を抑えることができます。飛騨でも地力の弱い畑であれば、草の繁茂を抑えつつ、高品質な果実を得ることに、成功するかも知れません。これからの課題でもありますが、難しい挑戦であることは、間違いありません。

-飛騨のぶどう栽培(新短梢栽培)-

 最も有力と考えるのは、新短梢栽培です。この仕立ては、山梨県で果樹の普及員をされていた小川孝郎さんが考案されたもので、一文字短梢栽培の派生形です。小川さんの弟子の方に、生食用のぶどう畑を見せていただいた事がありますが、非常に洗練された栽培システムだと思いました。新梢をYの形に誘引することで、果房を目線の高さに一列に配置して、作業しやすいだけでなく、SS(スピードスプレーヤー)による薬剤散布もスムーズに行えます。新梢の先端を地面と水平に誘引するため、畝間は広く取る場合が多く、垣根に比べ、単位面積あたりの新梢数は減る傾向にありますが、風通しがよく果実の健全性を担保できるため、反収は垣根と同等かそれ以上だと考えています。また、労働生産性という観点から見れば、作業がしやすく、これに勝る手法はないのではないかとすら思います。確かに、海外のように垣根栽培で、収穫を機械化できれば、生産性は高いのかもしれません。しかし、収穫用の機械は10tクラスの重量があり、畑が硬くなったり、木にダメージがあるなど、日本で機械収穫をしている所は、現在なくなりました。(AIロボット除く) 北海道など、雪の下に幹を入れないと凍害を受ける地域を除いて、これから主流になる栽培手法だと考えていますが、どうか・・・

 日本ワインの歴史は浅く、栽培手法も未だ確立されていないのが現状であり、産地以外では、より困難が伴うのは間違いありません。ある意味確立されていないがために、産地で成功している垣根栽培に向かいたくなりますが、飛騨のりんご栽培において、長野など産地のやり方を、そのまま踏襲しても、降水量の違いから、上手くいかない場合が多いです。

日々試行錯誤し、飛騨ワインの立ち上げに邁進して参ります。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・これを読んでいるあなた、さてはお時間ありますね。一緒に飛騨でワインを作りましょう!

 

 

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