飛騨のブドウ栽培に関する考察①-2021 - 木戸脇果樹園

飛騨のブドウ栽培に関する考察①-2021

ワイン作りを決断してから、早2年。2020年7月からのシードル販売を通して、方々からのお問い合わせも頂くようになり、この辺りで、飛騨のブドウ栽培について、一度取りまとめてみようと思います。お時間のある方だけお読みください。

*あくまで、2021年4月時点での個人的な見解・今後、考えが変わっていくこともある前提でのお話です。こうした思想のもと、実際の栽培に取り組んでいます。

 

-飛騨ワインの歴史-

 飛騨ワインの歴史は、記録されているものだけで、ごく最近、1987年の”ヤマブドウ分科会”(後の”飛騨山ぶどう研究会”)が発端と考えています。(山葡萄やラブラスカ系のブドウから出来た、お酒をワインではないという方もおられますが、ここでは日本ワインの歴史が、生食用ぶどうの歴史であったことから、これらもワインとします。)

 しかしながら、個人の農家レベルでは、生食用ぶどう栽培が始まると同時期に、ワインは作られていました。実際、1970年代には、マスカット・ベーリーAやホワイトアーリー(セイベル9110)で、自分で飲むためのワインを作っていたと聞いています。

 1970年頃、生食用のぶどう組合が設立され、最盛期には国府町だけで、十数軒が加盟していました。ぶどう先進地から技術を吸収し、自分達で平棚を張れる程の技術も有していました。このまま発展していくかに見えた、飛騨のぶどう産業ですが、豪雪が飛騨を襲います。

1980年12月~1981年3月 五六豪雪(昭和56年豪雪)
2005年12月~2006年2月 一八豪雪(平成18年豪雪)→被害報告

この雪で、平棚が潰れる度に、ぶどう栽培農家は減り続け、現在は当園を含めて数軒残すのみとなりました。近年、温暖化の影響で平時の積雪は減る傾向にありますが、豪雪の際には雪が増えることが予想されています。

 

-ぶどうの味を左右するもの-

 ぶどう栽培において、最も重要なことはキャノピーマネジメント(樹体管理)です。「新梢の適切な配置により、微気候をコントロールし、健全で良好な果実を得ること」を目的とする栽培管理の技術全般を指します。仕立ての方式は、このキャノピーマネジメントの技術の一つです。しかしながら、キャノピーマネジメントを同じように行っても、畑によって、その味わいには大きな違いが生まれてきます。垣根栽培・棚栽培という仕立ての議論に入る前に、そもそも、ぶどうの味を決定する因子とは何なのか、これについて考えてみましょう。

 まず、前提として、暑すぎる・雨が多すぎる・常に日陰・成らせ過ぎなど、およそぶどうの生育に障害が出るような状態は除くとします。2020年のシーズン中、研修先のワイナリーで、ぶどうを食べ続けた結論としては以下の通りです。

気候(積算温度・夜温)>土壌中の水分量(降水量・水はけ)>土壌の微生物活性(物理特性・微量元素状態の改善)>仕立て(垣根・平棚)

土壌の種類については、物理・化学特性の違いから、土壌中の水分量と土壌の微生物活性にそれぞれ影響を与えていると考えます。
また、台木の種類に関しては、開花・収穫時期のずれも生じますが、これは樹勢の違いからくるもので、土壌から養水分を吸い上げる能力の違い(逆にいえば、土壌に対する感応度の違い)ということで、土壌の種類同様、土壌中の水分量と土壌の微生物活性にそれぞれ影響を与えると考えます。

まず第一は気候です。果物の生育ステージは、ほぼ積算温度によって説明できます。その土地の気候区分に合わせた、ぶどうの品種選択が重要です。ピノ・ノワールやシャルドネといった品種は、早生の品種です。このような早生の品種を寒い土地で、ゆっくり育てることで、香りの前駆体(醸造を経て香る物質)を蓄積し、結果的に高品質のワインができることを目指します。飛騨の農地は、標高400m~1000mに分布しており、気候区分としては、Ⅰ~Ⅲの領域にあります。これらの気候は、ワイン用ぶどうの高級品種を植えることに適しており、品種選択さえ適切に行えば、およそどこでも栽培の可能性があります。

第二は土壌中の水分量です。水分量の多さは、そのまま樹勢の強さ・果実の肥大に影響します。生食用ぶどうは、果実の大きさを要求しますが、ワイン用は、逆に果実を小さくしようとします。これは、赤ワインでは特に要求される品質の一つです。赤ワインは、醸造工程において果皮を漬け込むため、果皮の割合が多いほど、果皮の成分をワインに溶け込ませることができます。また、小さい果実は、果実同士の密着を防ぎ、病気の予防になるだけでなく、凝縮感を高めます。飛騨は、雨の多い地域です。生育期間である4~10月の降水量は、1300mm~1800mmと、およそぶどう栽培に適した土地とはいえません。ただ、この雨の多さも、7月までの期間に集中しており、これさえしのげば、秋の気候は、産地に劣るものではありません。果実品質を決定する降水は、収穫1ヶ月前から最も影響を与えます。このため、8月以降の天候が良好であれば、良いぶどうは採れるのです。(少なくとも生食に関しては、実証済み)

第三は土壌の微生物活性です。〜電子技法との絡みもあるので、ここはもう少し勉強してから、書きます〜

第四が仕立てです。ワイン用ぶどうの栽培は、垣根が一般的と言われていますが、私はそうは思いません。いろんな仕立てのぶどうを食べてみましたが、適当な樹体管理・1樹辺りの着房数の制限が出来ている畑のぶどうなら、仕立て方による、少なくとも生食時における違いは、ほぼ無いです。(私の舌が、おかしいかどうかはさておき)新梢を立てることで、果実の肥大を抑え、果実中の果皮の割合を増やすや、凝縮感を得るという話があることも承知していますが、それ以前に、気候・土壌中の水分量・土壌の微生物活性の影響が大きいというのが私の結論です。実際、研修先で見せて頂いた棚仕立ての畑でも凝縮感のあるぶどうは採れていましたし、仕立てによる違いを調べた論文でも、粒の大きさに違いがないものもありました。つまり、前述の3つの条件を満たす、高品質なぶどう栽培が出来る場所で、さらに高品質のぶどうを採りたいと思った時に、初めて仕立てについての議論を始めるべきで、おそらく名醸地と呼ばれる場所(品種にとって最適な気候・地下の物理特性・化学特性に優れ、微生物が活性化している畑)以外では、キャノピーマネジメントの原則に従っている限り、仕立て以前にやるべき工夫がある、というのが本音ではないかと思っています。

これまでの内容を踏まえた上で、飛騨のぶどう栽培方法について考察してみます。

飛騨のぶどう栽培に関する考察②-2021

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